かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「あとでわかったけど、噂の出所は川田だったんだ。川田が友達に俺とは許嫁だって話していて、それが広まって噂になったらしい。だから、周りにどう見られるかを気にしてっていうよりは、友達に自分で言った手前、嘘だとも言えないから……ってところだったんだと思う」
「ああ、なるほど。卒業まで、許婚として優しくして一緒に周りを騙してほしいっていう……」

そこまで言いかけて、声が止まる。
だって、それって……。

「つまり、川田さんは桐島さんと許婚って関係が嬉しかったんですね」

父親から川田さんがどう聞いたのかはわからない。
でも、浮かれて友達に話したくなるくらいには嬉しかったってことだ。嫌だったら周りになんて絶対に言わない。

そう考えると、川田さんも可哀相な気がしてきてしまう。
悪いのは、まだ相手に承諾もされていない自分の頭の中だけの計画を川田さんに話したお父さんだ。

「それで、優しくするようにしたんですか?」と聞いた私に、桐島さんは「いや」と当たり前のように首を横に振った。

「意味がわからないし、してないよ」
「え、でもそうすると川田さんの立場が……」
「うん。嘘ついていたのが原因で女子グループの中では色々あったみたいだけどね。でもそれは俺には関係ないから」

桐島さんがハッキリと言う。
たしかに、それはそうだ。
川田さんが友達に勘違いだったと訂正するべきで、桐島さんが嘘のお芝居に付き合う理由はない。

でも、川田さんがその後、どれだけクラスに居づらかっただろうと考えると気が重たくなった。

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