かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「それからしばらく俺の悪い噂が流れてたから、川田からしたらよっぽど気に入らなかったんだろうね」
「えっ、川田さんが流したんですか?」
「俺の父親が不祥事を起こして許婚をやめることになったとか、そういう類のものだったから。川田以外が流すメリットがない。保身のためだったんだろうっていうのはわかるし、噂があったところで特に気にならなかったから、問い詰めることもなくそのまま卒業になったけどね」
なんでもないことみたいに話す姿に、桐島さんって本当に周りに興味が薄いんだなと思う。
そういえば行内の噂も放っているし、メンタルが強いのかもしれない。
それにしても、川田さんの自分勝手さに辟易する。
結局、友達に勘違いだったと謝るのではなく、桐島さんのせいにする方法をとるなんてどうかしている。
そもそも川田さんは桐島さんに好意を持っていたはずだ。
お願いを聞いてくれなかったからという理由だけで、好意が憎しみに変わったのだろうか。
そうこう考えているうちに料理が運ばれてきたので、気持ちを切り替えて「いただきます」と手を合わせる。
そのまま適当な雑談をしながら食べすすめ、残り少しとなったところで桐島さんが「憂鬱だな」ともらした。
「午後の仕事、ボリュームがあるんですか?」
「いや、仕事じゃなくて川田のこと。どうもああいう、人の話を聞かずにグイグイくる身勝手な子は苦手で」
言っている意味はわかる。
今日の朝の約束だって、あれ以上強引な取り付け方なんてないってくらいだったし、あの調子だと食事を断るのは不可能そうだ。
そのまま食事にいったとしても、楽しい絵が浮かばず、自然と「大変ですね」と声が漏れていた。
そんな私を、桐島さんが見る。