かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「ちなみに、相沢さん今夜の予定は?」
「え……嫌です」
「まだなにも言ってないよ」
そんな爽やかに笑われても無理だと首を横に振る。
「今日は陸に、その……あ、ボルシチ作れって言われてて。なのですみません」
「陸に日を変更してもらえないか俺から頼んでみるよ。この時間なら大体すぐ返事が……」
「嘘です。すみません」とすぐに謝ってから、「でも」と顔をしかめた。
「一緒になんて行ったら、川田さんきっと激昂しますよ。川田さんは桐島さんが好きだから中学の頃そんな嘘ついちゃったわけですし、あの強引な誘い方を見る限り、もしかしたら今も……」
私の口から川田さんの気持ちを話すのは違う気がしてなんとなく言葉を濁すと、桐島さんは「だろうね」とひとつ小さなため息をついた。
「だったら、ふたりきりの方がいいと思います。面倒かもしれませんが、しっかり向き合えば一度で終わるでしょうし」
私がついて行った場合、ふたりきりで話したいと再度誘われる可能性がある。
そっちの方が桐島さんからしたら面倒だろうと思い言った私に、桐島さんは「んー……」と曖昧に微笑んでから、口を開く。
「俺は中学の頃も今と似たような感じで、川田との一件以外は恋愛関係で噂になったことはなかった。そんな俺が恋人がいるって断ったところで、あの川田が簡単に信じて身を引くとも思えない。でも、恋人を連れて行けばさすがに信じるしかない……っていうのが俺の考え。それに川田の性格を考えると、恋人がいる前では俺への好意は見せないだろうし」