かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「相沢さん、ひざ掛けもらおうか?」
「いえ、大丈夫です」
私の格好は、仕事帰りなので、黒い半袖のブラウスにベージュのスカートというオフィスカジュアルだ。
膝丈のスカートを見てひざ掛けの提案をしてくれた桐島さんに笑顔で答えていると、向かいの席の川田さんが聞く。
「さっきから思ってたんだけど、付き合ってるのに〝相沢さん〟だとか敬語だとかおかしくない? まだ付き合いが浅いの?」
実を言うと、その辺の話は詰めていない。
お昼休みは恋人のフリをするという約束をしたところで終わったし、それから十九時までは部署が違うので顔も合わせなかった。
だからどう答えればいいだろう……と愛想笑いを浮かべながら冷や汗を流していると、桐島さんが答える。
「たしかに付き合い始めてまだ浅いけど、俺たちには俺たちの付き合い方があるから。それに同じ職場だと色々あるしね」
暗に川田さんには関係ない、川田さんにはわからない事情がある、と言っているように聞こえる言葉にひやひやする。
こちらに火の粉が飛んできても困るしあまり挑発的なことは言わないで欲しい……という意味で、テーブルの下で手をつつくと、目を細められる。
〝大丈夫だよ〟と私を安心させるように目配せされたけれど、こちらの意図がまったく伝わっていない気がした。
「そうね」と、予想通り少し不機嫌そうに返した川田さんが話題を変える。