かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「私、今大学病院の事務局で働いているの。桐島くんのお父様や私の父がいる病院よ。そこそこの立場だし充実してるわ。仕事もできる方だし一目置かれてる」
自分でそこまで言えるなんてすごいな……と思って見ている先で、川田さんが桐島さんに視線を向ける。
「でも、まさか桐島くんが医者以外の仕事を選ぶとは思わなかったわ。中学の頃はお父様の跡を継ぐつもりでいたでしょう? いつ考えが変わったの?」
桐島さんはひとつため息を落としてから答える。
横顔が少しうんざりして見えた。
「川田が親からどう聞いているかはわからないけど、あの大学病院は父親のものじゃない。たとえ俺が医者になっていたとしても簡単に継げるわけじゃないよ。まぁ、継げる保障があったところで医者にはならなかったけど。少なくとも高二の冬には医者以外を目指してた」
「高二の冬? きっかけがなにかあったの?」
具体的な時期をハッキリと言った桐島さんに聞いたのは川田さんだ。
それなのに、桐島さんはなぜか私を見て「どうだったかな」と微笑んだ。
私の知らない話をしているから気を遣ったのかもしれない。
「それで、医者じゃない俺を強引に誘ってまでしたかった話ってなにかな。申し訳ないけど、今回一回で終わらせたいしダラダラ話すつもりもないんだ」