かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「そもそも相沢さん、いくら付き合ってるとしてもこういう場にまでついてくるなんて、ちょっとどうかしてません? 常識があれば普通遠慮するものだと思いますが」

明らかなケンカ腰の態度に、頭の中のスイッチがカチリとオンになる。

あの痴漢の一件があってから、自分の意見を口にするのも行動に移すのもためらうようになった。
押し付けになってしまう可能性を気付かされた瞬間から今まで、ずっと。

大人になったのもあり、こういう場では適当に流したりかわしたりするのが一番だとも知っている。
いちいち相手にするのは、空気が読めないと思われることもわかっている。

――でも。

私を庇おうと口を開いた桐島さんの腕をグッと掴んで止め、川田さんを真っ直ぐに見据えた。

「すみません。ちょっと昔話するだけだとしても、異性とふたりきりで食事というのは私からしたら心配になってしまうので、桐島さんの言葉に甘えてついてきてしまったんです。……でも、常識というなら、恋人がいる男性と堂々とふたりきりになろうとする方がどうかと思いますが」

「ずいぶん、心が狭いのね」
「そうかもしれません。でも、待ち合わせ場所で顔を合わせてから今までずっと私に敵意を向けている女性と自分の恋人をふたりきりにはできません。桐島さんを信頼していないわけではなく、私の感情として嫌だと思ったので」

今までの私を邪魔にする態度が気のせいだとは言わせない。

本人ももちろん自覚はあったのだろう。
ハッキリ言った私に、川田さんがぐっと押し黙った。

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