かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「川田さんからしたら〝昔の話〟でしかないのかもしれませんが。私は、保身のために桐島さんの不名誉な噂を流したのが事実だとしたら、許せません」
川田さんの眉がピクリと動いたのを見ながら続ける。
「だから、今日はもしかしたら謝罪のために桐島さんを誘ったのかなとも思ってたんです。ずっと後悔していて、そんな時たまたま桐島さんを見かけて咄嗟に声をかけたのだとしたら、あれだけ強引に誘った川田さんの気持ちもわかるなって。でも……今までの感じからして、違いますよね。謝罪が本題だったら、私を少し邪魔には思ってもあんなに敵視しない」
プライドが高ければ、私がいる前での謝罪は抵抗があるかもしれない。けれど、覚悟を決めたなら私の視線があろうと謝るはずだ。
こんな機会、この先訪れるかもわからないのだから。
でも川田さんの態度からは少しもそんな気配がなかった。
「意味がわからないんだけど」と焦ったような笑みで言った川田さんは、私の視線から逃れるように桐島さんに聞く。
「桐島くん、この人のことが本当に好きなの?」
〝こんな人が?〟というニュアンスで聞く川田さんが内心頭にくる。
別に答える必要なんかないと口を出そうとしたところで、今度は桐島さんが私を止めた。
テーブルの下で握られた手にびっくりして見上げると、桐島さんは目を細めてうなずく。