かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「好きだよ。そうじゃなければ、こんな場所まで連れてこない。少しの不安要素も彼女の中に作りたくないから、俺が強引に連れてきたんだ。川田は違うみたいだけど、仕事以外で異性とふたりきりになるのはどんな事情があったとしても俺も嫌だから」
最後、私に眼差しを向けた桐島さんに胸が跳ねる。
これは演技だ。
川田さんを騙すための、恋人の演技。
それなのに、向けられた眼差しに本当に想いがこもっているように感じ、時間が止まった感覚に陥った。
桐島さんとの間にある空気がやたら甘みを帯びた気がしてどうしていいかわからなくなっていると、それをバッサリと切るように川田さんが言う。
「桐島くん、おとなしいからこの人にいいように扱われてるだけなんじゃなくて? この人見るからに気が強そうだし……もしかして何か弱みでも握られてるんじゃない?」
私の名前を知っていながら『この人』と呼ぶ川田さんには、苛立ちよりも呆れが勝つ。
自己紹介もしたのにどうしても呼びたくないらしい。
お父さんが医者だっていうし、お嬢様として大事に育てられ……プライドもすくすく高くなったのだろうか。
いっそここまでだと清々しいなと呑気に思っていると、桐島さんが急に「ははっ」と笑い出す。
何事かと思って見れば、桐島さんは呆れたような笑みを浮かべて川田さんを見ていた。