かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「俺はおとなしいわけじゃないよ。もし、中学時代、噂を放っておいたことを言っているなら、それは違う。校内限定の噂なんか、なにを言われたところでどうでもよかったから放っておいただけだよ。否定する時間もバカバカしいくらいに興味がなかっただけだ」

顔は笑っているのに、背筋がヒヤッとするような冷たい眼差しだった。
それを正面から受けた川田さんが息を呑んだのが分かった。

こんな目をする桐島さんは私も初めて見たのでびっくりして……でも、握られたままの手にキュッと力がこもり我に返った。

大きな手だなと思う。
皮の感触も骨の感じも私の手とは違う、男性の手だ。

ただ触れているだけなのに安心できるような、不思議な感覚があった。
桐島さんは私を見て目を細めてから、再度川田さんに視線を向けた。

「大事な話があるわけでもなさそうだし、もう帰らせてもらうよ」
「え、でもまだ何も……っ」
「相沢さんを本気で好きだって言っただろ。なのに、弱みを握られているだとか、〝この人〟だとか。侮辱するようなことしか言わない川田とこれ以上いても俺も不快なだけだし、これ以上相沢さんをここに居させたくない」

桐島さんに手を引かれるまま、私も立ち上がる。
手を離した桐島さんが今度は私の肩を抱くから、急に近づいた距離に息をのむ。

至近距離にある顔に戸惑う私なんて気にするでもなく、桐島さんの視線は川田さんに向けられていた。

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