かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「もしも謝ろうとしていたなら、もう気にしなくていい。言ったとおり、俺からしたらどうでもいいし気に留めたこともない」
ハッキリと言ったあと、桐島さんはそれまでの冷たい言葉が嘘みたいに綺麗な笑みを作る。
「じゃあ。仕事頑張って」
いつも通りの優しいトーンなのに、なぜか怖いほど冷たく感じた。
結局なにも食べなかったからと、ふたりで途中にあるパン屋さんに立ち寄り各々好きなものを買った。
お会計の時に一緒に払われそうになり、「借りを作るとあとが大変だって知ったので」と断ると「心配しなくても、千円で恩を着せるつもりはないよ」と爽やかに言われたけれど、正直信用はしていない。
それでも支払いをしてくれた桐島さんにお礼を言い、ふたりして駅までの道を歩く。
時間は二十時を回り、大通りは帰宅を急ぐビジネスマンで混み合っていた。
「性格はちょっとあれかもしれませんけど、川田さん、綺麗な人ですね」
話題を振ると、桐島さんは「そうかもね」と相槌を打つ。
「美人で家庭が裕福で性格が傲慢ってなると、いかにも〝令嬢〟って感じがしていいって、一部の男子が騒いでいたのを聞いたことがある。だから学生の頃から男子に人気があったかな」
「なるほど。たしかに〝令嬢〟ってそんなイメージあります」
「でも俺は比べるまでもなく相沢さんの方が綺麗で可愛いと思うけどね」
視線を私に向けながら微笑む桐島さんに、反応に困って目を伏せる。