かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「営業部の人とかなら顔も広そうですし……」
「営業部なんて口の軽い人の集まりじゃない。桐島さんを紹介して欲しいなんて私が言ったのが行内に広まったら、他の人が狙えなくなるし却下ね」
「え……緒方さんは、桐島さんが無理だったらすぐ他の人を狙うつもりなんですか?」

しかも行内で?
驚いて聞いた私に、緒方さんも目を丸くする。

まるで私が〝りんごって赤いんですか?〟みたいな、至極当たり前のことでも言ったみたいな反応だった。

「それが普通でしょ? 可能性ゼロの人にいつまでも熱上げて待ってても仕方ないし時間の無駄じゃない。そんなの効率が悪いでしょ」
「たしかにそうかもしれないですけど、でもだからって気持ちの切り替えとか、そんな短時間では……そもそも、意識して好きな人を見つけるって可能なんですか?」

緒方さんは、また私が凝りもせず〝りんごって――〟と聞いたように、目をしばたたかせた。

「え、待って。相沢さんってもしかして恋愛経験あまりないの?」

不思議そうに聞かれ、うなずく。
こんなところで見栄を張っても仕方ないし、嘘は苦手だ。

「はい。あまりっていうか、ゼロに等しいです」

ハッキリと言った私に、緒方さんは「えっ、そうなの?!」と驚いたあと、苦笑いを浮かべる。

「なるほど……じゃあ、今までの会話は私を挑発してたわけじゃなくて純粋な質問だったってことね」

緒方さんはそう呟いたあとで、気分を切り替えるみたいにひとつため息をつく。


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