かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「さっきの、私が軽い気持ちで桐島さんに紹介して欲しいなんて言ったのかって話だけど。もうね、学生じゃないんだし可能性もないのにその人だけをずっと想い続けるなんて人、少ないと思う」

背中を壁に預けた緒方さんが続ける。

「忘れられない人くらいみんないるだろうけど、そういう感情は持ったまま違う人と付き合いだしたりするのがほとんどでしょ。いいなって思う男がいれば近づいてみて、ダメなら他探して……二十代後半にもなると結婚も視野に入れて考えるようになるしそんなもんよ」

意外にも親切に教えてくれる緒方さんの言葉に感心して、自然と声がもれていた。

「なんか、すごいですね。私には多分、そんな器用にはできません。誰かひとりを想いながら他の人を探すのは難しすぎます」

桐島さんを好きかもしれない。
その感情に気付いただけでアップアップしているのに、そこにさらに他の人も視野に入れて考えるなんてまず無理だ。

そう白状すると、なぜか緒方さんはなにかを悟ったように「はいはい」と呆れ顔をした。

「そのひとりが桐島さんってことね。分かったわ。紹介してって話はなかったことにしてくれていいから」
「え、あ、いえ、別にそういうわけじゃなくて……」
「いいわよ。こうなるって最初から薄々予想はできてたし。とりあえず狙わずに終わるのも嫌だからできる限りのことはしようかなって思っただけだから。ほら、後悔したくないでしょ」

同意を求めるように言われ、思わず笑みがこぼれた


< 129 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop