かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
緒方さん直伝の恋愛講座を受けた翌日。
昼休みの休憩スペースでそのことを話すと、紗江子が明るい声で言う。
「へぇ。じゃあ緒方さん、そこまで悪い人でもなかったんだ」
「うん。紹介するって話もなかったことでいいって言ってくれたし……ホッとした。でも、今回で懲りたし、もうどんなに強引にこられても絶対に引き受けない」
緒方さんだったから納得してくれただけで、他の人が相手だったらああすんなりはいかなかった可能性だってある。
桐島さんへの恋心に自分自身で気付きながら、他の女性との仲を取り持つような真似は私には無理だ。
だから、もう絶対に誰からも引き受けないと心に固く決めていると、紗江子が私を見てため息を落とす。
「それにしても、澪が初恋自覚する瞬間に立ち会えなかったのすっごい悔やまれる……。もー、なんでそんなタイミングで自覚しちゃうの? 私の前でにして欲しかったなぁ」
口を尖らされても困る。
「初心者相手に無理言わないでよ」と言い、苦笑いを浮かべた。
私だってしたくてあのタイミングでしたわけじゃない。自覚するタイミングが選べたなら、迷わず金曜日の帰宅後にしていた。
それなら、土日の間に落ち着く時間をたっぷりととれるから。
昨日は、朝一で自覚してしまったせいで仕事中そわそわしているのが自分でもわかって、ミスしないように気持ちを引き締めるのが大変だった。
一度でも集中が切れたらおしまいな気がして、とにかく仕事を探していた気がする。