かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
豆乳のパックジュースを飲みながら言う紗江子に、なるほど……と思う。
でも……たとえ桐島さんが別会社で、顔を合わせる機会がそうなかったとしても、やっぱり私にはまだ告白なんて選択肢は頭に浮かばない。
気持ちに気付いた今、桐島さんと会ったら、どう挙動不審にならないようにするかということだけで頭がいっぱいだ。
今の私には頭の中でシミュレーションを繰り返してその時に備えるくらいしかできないな、と、恋愛において少しの経験値も持たない自分を少し情けなく思っていると、紗江子が言う。
「それでも、他の女にとられそうとかなったら覚悟決めて特攻するけど。なにもしないで奪われるのは嫌だし絶対後悔するから」
私に視線を移した紗江子が「澪だって、他の女に奪われるのを指くわえて見てるのは嫌でしょ?」と聞いてくるから、眉を寄せ考え……口を尖らせた。
「それは嫌だけど……ハードル高いよ」
初恋を自覚したばかりなのにそんなケースばかり考えるのは、初めて包丁を握った日にフルコース作ろうとしているくらい無謀に思え、苦笑いをこぼす。
いずれ、そういう日はくるのかもしれない。
状況が変わって必要に迫られたり、はたまた私の気持ちが変わって想いを言葉にしたくなったりする日がこないとも言い切れない。
でも、今はゆっくりしたい。
まずはゆっくりと、自分の心に芽生えた恋心を大事にしたい。
吹けば飛ぶような軽い気持ちではないけれど、それでももう少しこのまま胸にしっかり抱いていたい。
ゆっくり――。