かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
……ゆっくりひとりで向き合う時間が欲しいと、昼休みに願ったばかりだというのに。
神様はそんな些細な願い事でさえ聞いてはくれないのか。
仕事を終え退社するために乗ったエレベーターで、偶然桐島さんと一緒になってしまった。
今までこんなこと一度もなかったのに……。
まず、到着したエレベーターに何の気なしに乗り込もうとしたら「あれ。相沢さん」と声をかけられ、驚きのあまり「えっ」と大きな声を出してしまったのが恥ずかしい。
桐島さんの目に自分がどう映っているのかを考えるとどこかに隠れたくなったけれど、エレベーター内には隠れ場所なんてないので、せめてうつむく。
「お疲れ様です」という声が震える。
「うん。お疲れ様。相沢さん、このまま直帰?」
低く響きのいい声に問われ、胸が締め付けられる。
桐島さんの声や態度は今までと変わらないのに、恋心を自覚したっていうだけでそれらが突然何倍もの魅力を持って私に届くので、その衝撃に耐えながらコクリとうなずく。
手の甲で頬を触るとやっぱり熱い。
「はい。……桐島さんは?」
「俺ももう終わり。よければ家まで送るよ」
「え、いえ。大丈夫です。……黒田のことを心配してくれているなら、あれ以降本当になにもないですから」
思わず強めに言った私を、桐島さんがじっと見る。
その視線から逃げ出したくなりながらも「あの……?」と首を傾げると、桐島さんはわずかに眉を下げた。