かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


桐島さんはいつだって余裕で、そこが魅力の一部ではあるものの、悔しくも思った。
からかっているだけにしても、こんなに私に好意的な態度をとるくせに、表情ひとつ崩さないのが腹立たしい。

腹立たしい……というか、もやもやするのかもしれない。
桐島さんの本心がわからなくて。

「桐島さんの初恋っていつですか?」

うっかり出た言葉に自分で驚く。
もやもやした気持ちがそのまま声になってしまい慌てて取り下げようとしたけれど、桐島さんがなんでもない顔で答える方が先だった。

「初恋か……今かな」

少し顎を上げて空中を眺めている横顔は、いかにも過去を思い返しているように見えるけれど、さすがにそんな嘘には引っかからない。

呆れて「そうですか」とだけ返した私を見た桐島さんが、口の端を上げたのが視界の隅に見えたので、やっぱりからかわれたのだろう。

会社を出て、駅まで延びる大通りを並んで歩く。
十九時過ぎ。人通りは多い。

行員の視線がないかは一応チラッと確認したけれど、休憩スペースで目撃されている以上、今さら駅まで一緒に歩いていたところでそこまで大事にはならないかなと、半ば諦めるように思った。

桐島さんの横顔を眺めていて、そういえば……と思い出す。


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