かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「あの、覚えているかわかりませんが」

話しかけると、桐島さんが「ん?」と視線を向けた。

「以前話していた緒方さんの件なんですけど、昨日、私の方から断りを入れておきました。今さらですが、勝手に紹介なんて引き受けてしまってすみませんでした。今後は気を付けます」

目を合わせて謝った私に、桐島さんは少し驚いたように目を見開いたあと、ふっと表情をやわらげた。

「覚えてるよ。もともと断るつもりだったから助かった。ありがとう」

あの時は、緒方さんにお願いされて、その場から逃れることを最優先に考えて引き受けてしまった。

桐島さんと話すようになって間もなかったし、桐島さんがどういう人なのかよくわかっていなかったからという理由もあったかもしれない。

でも、こうして話すようになってから二週間が経った今ならわかる。
桐島さんはたぶん、ああいう紹介は好きじゃない。

だから本当に今さらだけど、嫌な思いをさせて申し訳なかったな……と考えていて、隣から送られてくる視線に気が付いた。

「なんですか?」
「断る気になった理由が知りたいんだけど、聞いてもいい?」

微笑みを浮かべる口元に問われてドキッとする。
桐島さんにどんな意図があるのか、それとも単に疑問に思ったことを口にしただけなのかわからないけれど、私からしたら不意打ちで核心をつかれた状態だ。

動揺を悟られないように気を張りながら答える。


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