かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「それは……私が引き受けたことですし、無理なら無理で私から言うのが筋というか。いつまでも緒方さんを期待させたまま待たせておくのも悪いと思っただけです」
目は泳いでいたし、声もところどころひっくり返っておかしなことになっていた。
自分でも驚くくらいにしどろもどろだったのに、桐島さんはなぜか満足そうに目を細めた。
「そっか。ありがとう」
今の説明に奇跡的に疑問を抱かなかった様子の桐島さんにホッとして、一気に高まった緊張感から解放された直後、不意に手に触れられる。
もともと、歩いているだけで手が触れそうな距離感だったしたまたまかなとも思ったのだけれど……するっと触れてきた指は離れることなく、逆に絡んできたので大げさでなくビクッと肩が跳ねた。
びっくりしてなんの反応もできずにいる私に遠慮することなく、桐島さんの指が私の手首の内側から手のひらを撫でていく。
自分の右手に起こっている事象が信じられなくて、でも、目で確認することもできなくて困り果ててしまう。
きっと、傍から見たらなんでもないことだと頭のどこかではわかっているのに、なんだかとてもいけないことをしているように思え、心拍数が異様に高まっていた。
私の皮膚の上をすべるようにして遊んでいた桐島さんの指が、するすると私の指に絡み、キュッと握られる。
この形が紗江子から話には聞いていた〝恋人つなぎ〟だと理解するのに少し時間がかかった。
心臓が、胸を突き破って出てくるんじゃないかってほどに、大きく速く動いているせいで、声が震えていた。