かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「私の経験値を上げたところで桐島さんにメリットはないですよ。こんなところを会社の人に見られたら噂になって困るだけですし」

そうだ。
駅までの道を一緒に歩いているくらいなら、会社を出る時間が重なったと言えばいいけれど、手を繋いでいるところを見られてしまったらそんな言い訳は通用しない。

それに気付いて咄嗟に後ろを確認していると、桐島さんが「そうでもないよ」と笑う。

「最近になって気付いたけど、ゆっくり慣らすのは案外好きみたいなんだ。だから楽しい」

本当に楽しんでいるように微笑まれ、目をしばたたく。

徐々にレベルを上げていくのが楽しいということだろうか。
仕事のできる人だから、ひとつひとつクリアしていく部分に達成感があるとか、そういう感覚でいるのかもしれない。

そう考えると、わからなくはないなと納得する。
桐島さんの仕事内容的にも、クライアントをサポートする役割もあるし、徐々に攻略していく過程が好きなのかもしれない。

そう思ったから「桐島さんって、楽しんで仕事してるイメージがあります」と言ったのだけれど、口にした途端、失礼だった気がして慌てて続けた。

「あ、苦労がないだとか悩みがないだとかそういう意味じゃなくて……好きというか、充実していそうっていう意味合いで」

気を悪くしていないかと心配して見上げたけれど、桐島さんは口元に笑みを浮かべていた。


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