かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「そういう意味じゃないよ」
「でも……」
「なにがきっかけだったんだろうって、相沢さんが俺のことで頭をいっぱいにしてくれたら嬉しいから宿題にしようかと思って」
目を細められ言葉に詰まる。
逃げるように視線を逸らしたけれど、微笑みを目の当たりにしてしまったため、心臓がバクバクと音を立てていた。
完全に桐島さんのペースだ。
恋人でもないのに、それっぽい甘い言葉を告げられ、私はただ困ることしかできなくて。
でも、桐島さんもそれ以上は言及してこないから、どうしていいのかわからない。
私が勇気を出して聞くしかないのだろうか……と考えている間にも桐島さんが握った手に力を込めるので、「あの……っ」と思い切って顔を上げた途端、こちらを見る瞳に囚われる。
嬉しそうな笑みに声を詰まらせている私に、桐島さんが言う。
「相沢さんの中で、俺がどんな印象なのかわからないけど、たぶん、相沢さんは俺を誤解してるよ」
「誤解……?」
印象と言われ、桐島さんについて考えてみる。
たまに言葉になにかしらの感情を含めて、なのに隠したり、わざと揺さぶるようなことを言って私の反応を見ていたり、そういう少し意地が悪いところはあるけれど、ベースとしては紳士的で優しくて穏やか……というのが私の中での桐島さんのイメージだ。
それは私が実際に桐島さんと接してみて感じたものだし、噂に左右されたわけでもない。
だから誤解はしていないと思うけれど……と思いながら眉を寄せていると、桐島さんの指先が動くので体の右側に緊張が走った。