かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
手は繋いだままで、桐島さんが器用に小指を動かし、その腹で私の手のひらを撫でる。
くすぐるように動く指も、送られてくる色気を含んだ眼差しも、恋愛初心者の私が到底受け止められるものではない。
ただただ困惑していると、桐島さんがふっと笑みを落とした。
「俺がこんなにあからさまに気にかけてるってわかりながら、他の子を紹介しても怒らないと思ってた?」
その言葉にハッとする。
桐島さんが言っているのは、たぶん、緒方さんのことだ。
……え。つまり桐島さんは緒方さんのお願いを引き受けたことを怒ってたってこと?
その前に、『こんなにあからさまに気にかけてる』って、私のこと……?
告げられた言葉に、たくさんの疑問符が頭の中にポンポンと浮かぶ。
桐島さんは、困惑してなにも言えなくなった私をたっぷりと眺めてから、口の端を上げた。
「次に会うまでに考えておいて。宿題」
それから桐島さんは、昨日見たテレビ番組の話や、話題になっている映画の話をしていたけれど、当然ながら混乱したままの私の頭に留まることはなくするすると耳から抜け落ちていった。
でも、その、雑談をする声でさえとても心地よくて……期待する胸がトクトク主張していた。
宿題の答えが知りたい。
桐島さんの真意が知りたい。
でも、宿題を提出して桐島さんと答え合わせしたらどうなるんだろう。
その先に待つ世界を考えると足がすくむ。
今はまだ、ひとりで何度だって問題を確認していたいと思うのはわがままだろうか。