かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「こんばんは。……お仕事帰りですか?」
「そう。……相沢さんも?」

この間とは違い、私を名前で呼んでくれる川田さんに内心驚きながらうなずいた。

「はい。……あれ? 川田さんの勤めている大学病院って、最寄り駅ひとつかふたつ向こうでしたよね?」
「ひとつ隣の駅が最寄なの。でも事務仕事してると体がなまるから、たまにひと駅ふた駅ぶんは歩いたりしてて、今日もその途中」

「そうなんですね」と返したっきり、会話が途切れる。
出逢ってからほとんど会話していない私と川田さんに共通する話題はないので、それも当然だった。

ちなみに、桐島さんを気に入っている素振りを見せていた川田さんだけれど、あれからとくにアクションはないらしい。

なにかの話の中で川田さんの話題になった時、桐島さんは『俺に気があったっていうのも憶測でしかないし、もしそうだったとしてもそこまでの気持ちでもなかったんだと思うよ』と話していたけれど……私にはそうは思えなかった。

だから気になってはいたものの、ここでそんな話を持ち出すのはいくらなんでも不躾すぎるし、デリケートなことを興味本位で探るのはよくない。

でも、そう思い口を引き結んだ私に、川田さんは眉間のシワを濃くした

「言いたいことがあるならハッキリ言ってくれない? 腫れ物に触るみたいに接せられるのすごく嫌いなの」

私の表情からなにかを感じ取ったのか、そんな風に言われる。

「じゃあ……お店の外で少し話しませんか」と提案すると、川田さんは黙ってうなずき自動ドアに向かい歩きだした。


< 150 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop