かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
一応、私側から話がある……という体で決まった立ち話のはずだったのだけれど。
「言っておくけど、相沢さんに負けたなんてこれっぽっちも思ってないから。私昔から男性にはモテるし、あの件にはまったくもって執着していないからご心配なく。単に桐島くんは私よりも相沢さんがどちらかというとタイプだったってだけって話でしょ」
お店を出るなり先手をとられ、驚く。
人通りの多い歩道。九月半ばになっても、まだまだ夏の気温が続いていて、頬に当たる風は生ぬるい。
それでも太陽が沈んでいるので、日中のようなじりじりとした肌を刺すような暑さはなかった。
「そんな風には思ってないので……」と言いかけたところで、キッと睨まれる。
「嘘つかないで。あれだけ桐島くんにベッタベタに特別扱いされてなにも思わないわけがないじゃない。嫌味もいいところだわ」
一体、どう答えたら川田さんの逆鱗に触れないで済むのか。
なにを言っても威勢よく言い返される未来しか見えずに黙った私に、川田さんは気持ちを落ち着かせるようにひとつ息を吐いてから目を伏せた。
マスカラが綺麗に塗ってある長いまつげがよく目立つ。
「それで、本題はなに? 私に謝れって言いたいの?」
それまでとは違い、ワントーン下がった声からは勢いが消えていた。
雰囲気まで変わった川田さんは、視線は数メートル先の地面に落としたまま、私の返事を待っていた。
そんな彼女をしばらく見つめてから口を開く。