かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「なんでもかんでも陸に話さなきゃいけないわけじゃないでしょ。私にだって陸の知らない交友関係があるの。とにかく、私は出かけちゃうから夕飯は陸がなんとかして。二十三時までには帰るから」
桐島さんは陸と私がふたり暮らしだと知っている。
常識のある桐島さんが、その上で二十三時まで部屋に居座るとも思えないのでそう言うと、陸は「わかった。気をつけてな」と何も疑うことなく私を見送った。
携帯の時計を確認すると、時刻は十九時。
特にこれといった予定もないのに突然できてしまった空白の四時間。
マンションの最寄り駅にはなにもないから会社近くの駅まで戻るとして、いったいどう過ごそう……と考えながら駅までの道を引き返した。
結局、三時間近くを映画を観て過ごした。そのあと映画館近くのお店で適当に食事を済ませた時点で、二十二時半前。
案外あっという間に過ぎた時間に驚きながらも駅に向かってぶらぶらと歩く。
平日の二十二時過ぎだというのにそこそこの人通りがあった。
ここは会社の最寄りからひと駅しか離れていないし、知っている顔を見つけても面倒だ。さっさと帰ろう。
今から帰ればマンションに着くのは二十時五十分近くになる。もう桐島さんもいないだろう。
そう思い足を進めていたときだった。
「あれ。預金部の子だよね。たしか、相沢さんだったっけ」
突然声をかけられる。
見ると、どこかで見たことのある男性が私を見て足を止めていた。