かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「もうそこなので、この辺で大丈夫です。送っていただきありがとうございました」
指差して言うと、酒井部長はマンションを見上げる。
「綺麗なマンションだね。まだ新しそうだし、立地もいい」
「運よく新築で入れたので」
「実は俺、物件見るのが好きなんだ。建築っていう観点からはもちろんだけど、他人のインテリアが気になるんだよね。俺自身、部屋は常に変化させていきたいと思ってるから他人のセンスは積極的にインプットしてる」
常に変化……なんだか忙しくて落ち着かなそうな部屋で暮らしてるんだな、と思いながら「そうなんですね」と返す。
それ以上の話はないのに、酒井部長が帰る気配を見せないので、内心うんざりしながら笑顔を作った。
「このマンションは、真ん中にリビングがあって、その左右にひとつずつ部屋があるので2LDKなんです。だから、家賃が高くて。兄と同居じゃなければ私には住めないような物件です」
酒井部長が本気でインテリアが好きだとは思っていない。
〝送る〟と強引に話を進めたのも、インテリアの話も部屋に上がりたいがための建て前だ。
そういう雰囲気がぷんぷんした。
同じ行内の女相手によくやるな……と呆れながらも笑顔で説明すると、酒井部長はわずかに眉をひそめた。
「ああ……なんだ、お兄さんと同居しているのか。そうか……なら安心だね。じゃあまた」
なんてわかりやすい態度だろうと鼻で笑いそうになるのを堪え「はい。ありがとうございました」と頭を下げる。