かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


心なしか、ガッカリして見える背中が遠くなるのを、その場に立ったままただ眺めた。
二十三時近い路上に人影はなく、酒井部長の後ろ姿が余計に寂しく見える。

酒井部長って、たしか噂で名前を聞いたことがあるけどなんだったっけなぁ。
明日紗江子にでも聞いてみよう、と思いながらどんどん小さくなる背中を見ていたとき。

「――遅かったね。楽しかった?」

突然うしろから回った腕に体を抱き寄せられ、一歩引きずられるようにあとずさった。
咄嗟に出そうになった叫び声がすんでのところで止まったのは、直前に聞こえていた声を思い出したからだ。

まだ私を後ろから抱き寄せる腕は緩まない。

近づいて初めて気付く桐島さんの香りに、心臓がドキドキしていた。

「今の、酒井部長だよね。ずっと一緒だったの?」と問われ、緊張しながらも少し振り向き視線を上げる。
予想通り至近距離にあった桐島さんの顔に、鼓動が跳ね上がった。

でも、いつも微笑みを浮かべている目が笑っていなくて胸がギクリとする。
すっと冷たく細められた目はまるで怒っているように見えた。


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