かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
オムライスの専門店は二年前に新しくできたばかり。当時は長い行列ができ、とてもじゃないけれど昼休みに並ぶ気にはならなかったけれど、今は人気もだいぶ落ち着き、少し待てば入れるくらいになった。
それでも、いつ来ても店内はほぼ満席状態で、たまにだけれど同じ制服の女性も見かける。
銀行内の話題なだけに周りに知っている顔がないことを確認しつつ、紗江子に聞く。
「酒井部長っていくつくらい?」
「詳しくは知らないけど、見た感じ、三十代後半くらいじゃない?」
「……それで、そんな恋愛観なんだ」
そんな歳で……と思い眉を寄せた私に、紗江子が「呆れるよね」と相槌を打つ。
「しかも、本気じゃないのに職場の子に手を出すっていう危機感のなさもありえないよね。訴えられてどっか飛ばされてくれればいいのに」
同意してうなずいていると、それまで口を尖らせていた紗江子が私を見て口の端を上げる。
「ところでさ、なんで今日外に食べにでようなんて言いだしたの? 桐島さんと休憩スペースで顔を合わせるのが気まずいから? 初恋に気付いて、どうしたらいいのかわからなくて気持ちを持て余してる感じ?」
聞いておきながら自分で答えを言っている紗江子に、苦笑いを浮かべ……それから目を伏せる。
その通りだった。
「だって、どんな顔すればいいのかわからないし」
「別に普通にしてればいいじゃない」
「簡単に言わないでよ。普通になんてできないし、絶対に挙動不審になるのがわかってるから少し時間を置きたいの。私がひとりで慌ててるだけならまだいいけど……失礼な態度になっちゃったら嫌だし」