かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「いや、私が普通だって。……ところで、早熟の反対語ってなんていうんだろうね。遅熟?」

首を傾げてから携帯で調べだした紗江子を眺めているうちに、桐島さんの顔が頭に浮かび口を引き結んだ。

実は、さっきもメッセージがきた。

内容は『取引先から映画のチケットをもらったから一緒に行こうか。相沢さんの都合は?』というもので、昨日私が映画を観てきたと話したから振ってくれた話題だということは予想できた。

嬉しい……とは思う。
誘ってくれるということは、一緒の時間を過ごしたいと思ってくれているわけだし、嬉しい。

けれど、昨日抱き締められたっていうのに、いったいどんな顔をして会えばいいのかがわからない。

初恋に気付いて、それだけでてんやわんやだって言うのに、桐島さんが核心的な発言はしないまま、そこにどんどんと難題を重ねるような言動をするせいで、もうパンク状態だった。

『経験値が低いって言ってたから。ゆっくり俺に慣れていってくれたらいいなと思って』
そう言って、手を握ってきたり。

『俺がこんなにあからさまに気にかけてるってわかりながら、他の子を紹介しても怒らないと思ってた?』
そんな意味深な宿題を出してきたり。

『あまり心配させないで』
切羽詰まったような声で言って、抱き締めたり。

混乱ばかりさせてくる桐島さんにキュッと唇をかんでいたとき、紗江子がパッと顔を上げた。

「あ、反対語は晩熟だって……」
「――晩熟?」

頭上から落ちてきた男性の声に驚く。
見上げると、そこにはさっきまで話題に上がっていた酒井部長が立っていて、あまりのタイミングに焦る。

聞かれていたとしたらまずい。
そんな不安は紗江子も同じだったようだった。


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