かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「お疲れ様です。酒井部長もここでランチとってたんですか?」
暗に、酒井部長が今までどこにいたのかを聞き出そうとしている質問だ。
その問いに、酒井部長が「いや、他の店で食べた帰りにたまたまふたりを見かけたから立ち寄ってみたんだ」と笑顔で答えたのを見て、ふたりしてこっそり胸を撫で下ろす。
よかった。聞かれていなくて。
「この店は入ったことがなかったんだけど、女の子には人気があるみたいだね。おいしかった?」
そう聞きながら私の隣の椅子を引き勝手に座る酒井部長に、まさか居座る気でいる?と驚いていると紗江子が持っていた携帯が震え出す。
着信だったようで、電話を受けた紗江子は少し言葉を交わしたあとで携帯を耳から離し眉を下げた。
「なんか、午後一で持ち出したい処理に手違いがあったみたい。今から戻って直して欲しいとか言われた。……あー、またミスだ」
「あ、じゃあ私も一緒に戻……」
紗江子には悪いけれど、ちょうどいいタイミングだと思い席を立とうとする。
でも、私が言いきるのを待たずに酒井部長が話し出す。
「じゃあ、ここは俺が持つよ。仕事頑張って」
テーブルの脇にあるレシートを酒井部長がとる。
でも、一向に立ち上がる様子は見せず、ただニコニコとしているだけでどうしたらいいのかわからなくて困る。
酒井部長が通路側の席なため、私は酒井部長がどいてくれないと動けない。