かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「大丈夫だよ。俺は独身だし、事実かどうかもわからない噂になったところで困る相手もいない」
「……でも、間違った噂が広まって仕事に響いたりしたら嫌ですし」
「俺ももういい歳だから、噂になんか左右される仕事はしてないよ」
あくまでも自分本位でしか考えてくれない酒井部長に、もういっそこっちが迷惑なんだと言ってしまおうかと考えていたとき、「でも、相沢さんが迷惑かな?」と聞かれる。
チャンスとばかりに、うなずこうとしたけれど、酒井部長が続ける方が先だった。
「聞いてるよ。企業リサーチの桐島くんとできてるんだって?」
酒井部長の細めた目が体に絡みつくようだった。
嫌な感情の乗った眼差しに思え、居心地の悪さが増す。
紗江子がセクハラ発言がどうのと話していたことを思い出した。
「桐島くんっていったら、職場でもダントツの一番人気だろう。それなのに誰にもなびかないって噂の男だ。それをどうやって落としたのか教えてほしいな」
ニッと細められた目が気持ち悪くて視線を逸らす。
ここは店内だし人目もあるのに、わずかな不安が生まれていた。
中学生の頃、黒田に殴られたときのことが頭をよぎった。
「桐島さんとは、そういう関係じゃありません。ただの噂です」
「でも、仲良くランチをとっているんだろう? 休憩スペースで堂々と同席するなんて見せつけているようなものだし、周りが騒ぐのは予想がつくと思うけど?」