かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「すみません。私、そういう話をフランクにできないつまらない女なので」
ここでセクハラだなんだと言ったところで仕方ない。
上に訴えても、証人がいない以上、言った言わないの水掛け論になる。その末、一応の注意だけされた酒井部長が私を悪者にしないとも言い切れない。
行内の立場は、私の方が弱い。
悔しくても、ここはスルーしてやり過ごすのが一番だ。
そう思い立ち上がると、酒井部長も仕方なく席を立つ。
そして、お店を出ようとしたとき……店内から送られる視線に気付き、血の気が引いた。
お店の真ん中あたりに、女性がふたり。
知り合いではないけれど、私と同じ制服を身につけている。同じ行員だということは一目瞭然だった。
きっと彼女たちには、私と酒井部長が一緒にランチをとっていたように映っただろう。
「俺も戻るから、一緒に出よう」
そう笑顔を向ける酒井部長の言葉が、騒がしいはずの店内によく響いていた。