かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
なので、〝謝りたい〟なんて思わせてしまったなら誤解だし、そこは訂正したいとも思うものの……そう言ったところで返ってくる言葉はわかっている。
〝じゃあ、なんで?〟だ。
そう聞かれたら私はなんて答えればいいのか、逃げるのか向き合うのか。覚悟がまだ決まらない。
「……その前に、せっかちすぎない?」
ひとりなのをいいことに、声に出して非難する。
先週だって一度会っているし、メッセージだって遅れ気味だとはしても返している。
仕事が忙しければそれくらいのことはいくらでもありそうなものなのに、〝謝りたい〟なんていうのはおかしい。
そうは思っても……嫌だとか面倒だと思わないのは相手が桐島さんだからだろう。
返信が遅れたり、私の態度がおかしかったりすることに気付いて気にしてくれているのだと思うと、嫌どころか嬉しくさえ思った。
これまでの私だったら考えられなかったことだ。
惚れた弱みって本当にあるんだな、と思いながらエレベーターから降り、出入り口に続く通路を歩いていたとき。
「相沢さん」
後ろから呼ばれ、肩がビクッと跳ねた。
振り返るまでもなくわかってしまった声の持ち主に、バッグを握る手に力がこもる。
咄嗟に逃げ出したい衝動に駆られたけれど、それをどうにか我慢する。
土曜日にもらったメッセージを返せていないのをわかっているだけに、ここで逃げ出すことはできなかった。