かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「川田さんとここで待ち合わせてるんですか?」
無言の桐島さんを不思議に思いながらもついていった先にあったのは、銀行から少し離れた場所にある公園だった。
中央にある大きな池の周りをコンクリートの細い道が囲んでいて、日が出ている間はジョギングや犬の散歩をしている人で込み合っている。
けれど十九時を過ぎた今は、昼間とは打って変わって静かだった。
暗い上、木もたくさんあるから全部を見渡せるわけではないけれど、人影は広い公園にポツポツと確認できる程度。
ひとりで通ったら少し怖いと感じるかもしれない。
穏やかな風が、池の水面に映った丸い月をわずかにゆがめていた。
誘われるように空を見上げると綺麗な丸い形をした月があって、そういえば今日は満月だと気づく。
朝のニュースで九月の満月は〝ハーベストムーン〟だと紹介されていたっけ……としばらく月を眺めてから、まだ無言でいる桐島さんをチラッと見る。
池を囲う鉄製の柵前についたとき、肩を抱いていた腕からは解放された。
そこにホッとしつつも、桐島さんの様子がおかしく思えてざわざわとした不安が消えない。
ここにくるまでに気付いたけれど、いつもの柔らかい雰囲気が消えている気がしていた。
黙ったままの横顔は怖いほどに静かに映る。