かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「俺といるよりも、酒井部長といた方が楽しい?」
憂いの浮かぶ綺麗な顔で、予想もしていなかったことを聞かれ「え?」と声が漏れる。
どうして酒井部長の名前が出てきたのかがわからずにキョトンとしている私をしばらく見ていた桐島さんだったけれど、私がそれ以上なにも言わなかったからか「噂になってる」と言葉を足した。
その顔はどこか不貞腐れているように見えた。
「あ、噂……そっか。そういえばそうでしたね」
酒井部長との噂を知ったのは今日のことなのに、桐島さんを目の前にしたせいですっかりと頭から抜けていた。
そんな私の態度を見た桐島さんは、理解できなそうに眉を寄せる。
「忘れてたの?」
「はい……。噂になってるっていうのは今日知ったんですけど、私がどうこうできるものでもないですし、収まるのを待つしかないかなって。……でも、桐島さんが知ってるのは意外です」
「同じ建物内にいれば耳に入ってくるよ」
「そうじゃなくて、噂とか興味なさそうだったので」
自分自身の噂でさえどうでもよさそうだったし、実際そうだったはずだ。
だから、たまたま耳にしただけだとしてもそれを捨て置かずわざわざ話題に挙げたことに対して不思議に思っていると、桐島さんは顔をしかめた。