かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


桐島さんは、そう呆れた笑みで言ったけれど、違う意味で私も驚いていた。
さすが企業リサーチ部門なんてエリート部署にいると、内部事情にも詳しい。

私や紗江子がしている噂話とは全然違っていてびっくりした。
そして、そんな話をしたあとで、桐島さんが言った言葉にはもっとびっくりした。

「相沢さんが中学の頃、実は一度会ってるんだ」

コーヒーを飲みながら、なんでもないことのように打ち明けられた話に、咄嗟に「え」と声が漏れていた。

「桐島さんと私が、ですか? あ、陸が入院してた病院で……?」

たしか、陸と以前そんな話をした覚えがある。
桐島さんはよく陸の入院している病院に来ていて、そこで陸とも親しくなったって。だから、お見舞いに通っていた私とも会ったことがあるかもしれないって話だった。

だからそう聞いたのだけれど、桐島さんは「違うよ」と微笑んだまま首を横に振った。

「俺が高二の冬、学校の先輩に近くの公園に呼び出されたことがあった。その当時、俺の父親は大学病院の部長だったんだけど上の判断で医療機器メーカーとの契約を切ることになったらしくて、それをメーカーに直接伝えたのが父親だったんだ。俺を呼びだした先輩はその会社に勤める社員の息子だった。大学病院から手を離されたせいで経営が傾いて大変だとか……まぁ、俺に言われても困るようなことで責められた」

この話が、昔会った話に繋がるのかどうかはわからない。
けれど、すんなり〝そうなんですか〟と聞いている気にもなれずに「でも、そんなの八つ当たりですよね」と眉を寄せ言うと、桐島さんはキョトンとしたあとでおかしそうに笑った。

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