かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「そうだね。でも、先輩は相当頭にきてるみたいだった。受験なのに、父親の仕事がバタバタしているせいで落ち着かないだとか、進学をあきらめることになるかもしれないだとか……気持ちはわからないわけでもなかったから、言われるままにしてたんだ。それで先輩の気が収まるならいいかとも思った」
穏やかな横顔を見つめていて、そういえば……といつかの話が頭をよぎった。
『俺の父親が不祥事を起こして許婚をやめることになったとか、そういう類のものだったから。川田以外が流すメリットがない。保身のためだったんだろうっていうのはわかるし、噂があったところで特に気にならなかったから、問い詰めることもなくそのまま卒業になったけどね』
『俺はおとなしいわけじゃないよ。もし、中学時代、噂を放っておいたことを言っているなら、それは違う。校内限定の噂なんか、なにを言われたところでどうでもよかったから放っておいただけだよ。否定する時間もバカバカしいくらいに興味がなかっただけだ』
私だったらカッとなりそうなところだけれど、桐島さんのこれまでの発言や実際の態度を考えると、その時の桐島さんが想像がつくようだった。
事なかれ主義とも自暴自棄ともまた違った、どこか他人への冷たさを感じる部分がたしかにあるんだろう。
無駄だと思ったら即座に切り捨て、感情を動かさない。
いつだったか、桐島さんが自分自身のことを『ただの正義感だけじゃ動かないし、打算的で案外冷たいよ』と話していたことを思い出した。
「でも、そういう俺の態度は余裕があるって見えたみたいで、ヒートアップした先輩に掴みかかられて殴られそうになったんだ。そこで助けに入ってくれたのが相沢さんだった」
細められた目で見られる。
桐島さんの思い出話だっていうのに、そこに突然登場した自分の名前に驚いた。