かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
身近で正義を貫き通す陸を見てきたからという理由もあるし、当時の私自身がそうだったからだとはわかるにしても、かなり生意気なことを言っていて恥ずかしくなる。
けれど桐島さんは首を横に振った。
「あの時の相沢さんの言う通りだよ。俺は、先輩の気が済むなら好きなだけ言わせておけばいいって考えもあったけど、一番は面倒なことにならないようにって考えて、最初から意見しようとも思っていなかった。だから……年下の子に言われてバツが悪かったのは俺も一緒だったんだ」
桐島さんは自嘲するように笑ったあと、昔話を続ける。
「その後、流れで俺の身の上話になって……医者になろうとは思ってるけど、今回の父親みたいに見捨てる判断もしなければならないと思うと憂鬱だって話をした時に、相沢さんが不思議そうな顔で言ったんだ。『じゃあ、そういう風に経営が傾いた会社を手助けする仕事に就いたらいいんじゃないですか』って」
当時の私はたぶん、かなり無知だった。
困っていたら誰かしら助けてくれるはずだとか、ピンチになったって警察とか弁護士に話せば絶対に助けてくれるんだとか、そういうレベルの知識しかなかった。
それなのに偉そうに桐島さんにアドバイスしたのか……と、本当に過去の自分を捕まえてお説教したくなった。
正義感だとか、真っ直ぐな感情しか持っていなかったあの頃の自分は、今思い返すと痛々しいものでしかなくて恥ずかしい。
「その相沢さんの言葉が、今の仕事を選ぶきっかけになったんだ」
ただただ自己嫌悪に襲われうつむいていた私の耳に、そんな言葉が飛び込んできて、ゆっくりと顔を上げる。
そんな私を見た桐島さんはにこりと笑って続けた。