かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
酒井部長との噂は放っておくことで話はまとまった。
直接聞かれたら、たまたまランチをとったお店が一緒だったと説明すればいい話だ。ただの噂なんだし、そのうちに消えていく。
桐島さんも不満そうにはしながらも、事を荒立てる必要もないと納得した。
桐島さんとお付き合いを始めて十日。
関係は順調……というか、付き合う前と大きくは変わっていない。ただそこに両想いという要素が足された感じだ。
それでも、手を繋いだりキスされたりと、触れ合う機会は増えたので恋愛初心者の私はそのたびにこっそりドキドキしている。
きっと、そんなの桐島さんにはお見通しなんだろうなと考えると少し悔しく……そしてとても恥ずかしい。
でも、そんな感情も含めて全部嬉しいのだから、きっと私は浮かれているんだろう。無事成就した初恋に。
そんなわけで私生活は順風満帆……なのだけれど。
一難去ってまた一難とはよく言ったものだなと、そのことわざを作った人に感心する。
「もうそういう運命なんだから諦めろって。これだけの人間がいる中、二度もバッタリ会うなんて早々ないし、神様が〝付き合っとけ〟って言ってるんだよ。まさに奇跡」
桐島さんと同じ〝奇跡〟という単語を使った黒田をきつく睨みつける。
駅まで延びる広い歩道を通せんぼするように立った黒田は、簡単には逃がす気はないようだった。
待ち伏せしていたわけではなく、本当に偶然だとは思うけれど……二度目となると神様を呪いたくなった。