かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
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「これ、いつの通帳だか知ってます?」
黒田とのことが片付いた、翌週月曜日。営業が持ち込んだ昔の通帳を、預金部メンバーで覗き込む。
顧客から預かった物だけど、顧客本人もこの通帳の存在を忘れていたらしく数十年以上放置していたという話だった。
見慣れない通帳デザインには、たしかにうちの銀行の名前が印字されている。
「たしか、みっつ前のデザインだな。実物は初めて見た」と、齢五十の部長が言うのだから、そうとう昔のものなのだろう。
少なくとも、部長が入行したときには違うデザインだったということになる。
手を伸ばした紗江子が、通帳を開きペラペラとめくる。
「中の記帳面ももうよく見えないし、これ復活させるって……とりあえず印鑑票を書庫から引っ張り出してきて、それからですよね。印鑑票、ちゃんと印影がわかる状態で残っていればいいですけど。そもそも、この時代って印鑑票とかもらってます?」
「どうだったかな……。ちょっと定かじゃないから確認してみるよ。誰でもいいから、その間に一応、並行して印鑑票探しておいてもらえる?」
先輩が言うので、手を上げる。
「私、今は手が空いてるので探してきます。睡眠口座のところですよね」
「うん、そう。お願い。わからなかったら適当に切り上げて。たしか前預金部にいた長井部長がこのへん詳しいって話だったから、内線で聞いてみる。えーっとどこの部署に異動したんだっけなぁ」
受話器を持ち上げながら考えている先輩にそちらは任せて、フロアを出て書庫に向かう。
書庫や資料室、会議室が集まる六階は、今は会議は行われていないのかひっそりとしていて人気がなかった。