かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
預金部が過去の資料の集まる書庫に出入りすることは、今回のような長年使われていないため睡眠口座となっている口座の印鑑票を探すときと、年末の資料入れ替え作業のときくらいなので、六階に立ち入ることは稀だった。
窓の並ぶ廊下を通り、部長に借りてきた鍵で書庫を開ける。
空調が効いているはずなのに、中の空気は籠っていて重たく、入るのを少しためらうほどだった。
書庫にも窓はあるけれど、外から入ってくる光だけでは頼りないので電気をつけ、ドアを開けたまま固定して作業に移る。
古い印鑑票が入った段ボールは十箱ほど。
数十年前の印鑑票が入っている可能性のある場所は限られるものの、口座番号順になっていなかったり色々紛れていたりで、今までもすぐに見つかったことがないだけに、この作業には嫌な印象しかなかった。
「えっと、5936……」
声に出して繰り返しながら探していく。
この番号の印鑑票が入っているはずの段ボールの中を探したけれど、目当ての番号は見つからず、また蓋をして元の場所に押し込む。
この段ボールにないってことは、他の九箱の中に紛れ込んでいるか、もともと印鑑票が存在しないかのどちらかだ。
先輩も内線で聞いてみるって言っていたし一度戻って現状確認した方がいいかもしれないなぁ、と考え、書庫を出るために一歩踏み出したとき、人影に気付き肩が跳ねた。
「……びっくりしました。酒井部長も書庫に用事ですか?」
いつの間に書庫に入ったんだろう。
酒井部長がいつの間にか同じ列にいて驚く。
バクバク鳴る心臓を上から押さえていると、酒井部長は左肩を棚に預けて微笑む。