かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「いや、相沢さんが入っていくのが見えたから」
「……私に用事ですか?」
預金部と融資管理部で取り扱う仕事はかぶっていない。
なにか雑用的な処理でも発生したとか……でも、部長が直接頼むような仕事って……と頭を悩ませていると、そんな私を見ていた酒井部長が口を開く。
「相沢さん、やっぱり桐島くんと付き合ってるんだよね。先週、手を繋いでるところを見かけたんだ」
口の端を上げた部長をじっと見る。
気を抜いたら本人を目の前にしてため息をついてしまいそうだった。
でも、わざわざそんなことを確認するために私を追ってきたのかと考えるたら、誰でもうんざりするはずだ。
学生じゃあるまいし、どうかしてる。
見間違いだとでも言って切り抜けるのと、本当だと認めるのはどちらが得策だろうと考えていると、そんな私を誤解したのか酒井部長が笑う。
「ああ、心配しないでも大丈夫。社内恋愛は禁止じゃないし、どんどんすべきだと俺は思ってるしね。そんな固い話をしにきたわけじゃないんだ」
「……じゃあ、なんですか?」と聞いた私に、部長が目を細める。
「相沢さんさ、俺とも付き合わない?」
私が思わず「は?」と眉をしかめてしまっても、酒井部長は気にする様子もなく続けた。
「ずっといいなとは思ってたんだけど、相沢さん誰とも噂になったことがなかったし高嶺の花に思えて声かけられなかったんだ。男に対して一線引いてるところもあったしね。だけど、そうでもないってわかったから。どう?」
行内で、しかも業務時間内に平気でこんな発言をする部長に頭がクラクラした。
紗江子から聞いた話だと、奪うスリルが好きだって言うし、人気の高い桐島さんから私を奪ったら気持ちがいいって考えてのことだろうとすぐに想像がついた。
本当に救いようがない。