かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「桐島さんとお付き合いしているって話をしたばかりですけど」
「わかってる。俺だってなにも真剣交際を申し込んでいるわけじゃないよ。遊びでどう?って話」
「遠慮します」
失礼なほどピシャリと断ったつもりだったのに、酒井部長は引かずに言う。
「この間も話したけど、相性ってあると思うんだよね。その辺、桐島くんとはどうなのかなって。不満があったりするんじゃない?」
黒田もどうかと思うけれど、気持ちの悪さで言ったら酒井部長が上だった。
モテ期って、もっと華やかなイメージだったのに、嫌な思いばかりさせられて気が滅入る。
いい年してここまで軽い恋愛ばかりを好むってどうなんだろう。
これから先、相手のためにも絶対に結婚なんてしないで欲しい。浮気するのが目に見えている。
とりあえず、ものすごいセクハラ発言をされたことはわかっていたので、どう対処しようかと考えていたとき。
「あ」
酒井部長の後ろに現れた人物に声がもれた。
「え?」と部長が振り返るより早く、桐島さんが口を開く。
「そういう心配はしていただかなくて大丈夫ですよ。酒井部長」
口調はいつも通り穏やかで、表情だってにこやかだ。
それなのに、ピリッと肌を刺すような雰囲気をまとった桐島さんを確認した酒井部長が、眉を寄せる。
「どうしてここに?」
「仕事です。相沢さんが探している印鑑票について、預金部から企業リサーチの長井部長に内線があったので、その件で」
〝長井部長〟の名前を聞いて、そういえば先輩が昔の口座に詳しいと話していたことを思い出す。
まさか今、企業リサーチ部の部長をしているとは思わなかった。