かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「桐島さんって、女性が苦手ってわけではないんですね」
唐突すぎたからか不思議そうな顔をされたので、説明する。
「さっき〝面倒だ〟みたいなことを言ってたので、結構うんざりしてるのかなって思ってたんです」
桐島さんは人気がある。だからこそ、女性不信になる可能性もありそうだ。誰だって、目の色を変えて迫られたら怖いし嫌にもなる。
面倒事に巻き込まれたりしたら尚更だ。
「でも、こうして私とふたりきりでご飯食べていても平気そうなので、違ったのかなって」
私の説明に、桐島さんは納得したみたいに「ああ、そういう意味か」と笑う。
「たしかに少し苦手意識はあるかもしれない。必要なこと以外は話したくないっていうのが本心でもあるし。飲み会でベタベタ触られるのも嫌だしね」
「え、でも……」
「ただ、誰彼構わず苦手っていう感じではないかな。同じ部署のパートさんなんかとは普通に世間話もするし。……それに」
私を見た桐島さんが目を細める。
「相沢さんとこうして話すのは楽しい」
にこりとした柔らかい微笑みを向けられ、またしても対応に困りギシッと体が固まる。
とろけるような、というのはこういう表情の形容詞に使うんだなと納得するような笑みは、空気をどこまでも甘く染め上げていた。
数秒の戦いに根負けしたのは私の方だった。
細めた瞳でじっとこちらを見てくる桐島さんからそろそろ目を逸らし、「あの」と口を開く。