かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「走るなら付き合うよ」と申し出てくれた桐島さんに苦笑いを浮かべた。
「桐島さん、ひとりでも走ってるって言ってたじゃないですか。とてもじゃないけどついて行けません」
「ペースは合わせるから大丈夫だよ。ひとりで走らせるのは心配だし、それに、そのうち……」
桐島さんがそこで黙る。
言いかけた言葉が気になってその先を待ったけれど、桐島さんは仕切り直すような笑顔で私を見た。
「それより、今の部屋を決めたのは陸? 澪?」
「部屋? えっと……陸ですね。私の就職が決まってひとり暮らしするって話を出したら、勝手に探してきたんです。陸はそれまでひとり暮らししていて、その頃はまだ更新時期でもなかったのに、わざわざ解約して引っ越してきました」
さっき言いかけられたことが気になりながらも答えると、桐島さんが笑う。
「よほど澪が心配だったんだね」
「まぁ……黒田と私の仲を取り持ったのは自分だって思ってるので、責任を感じていた部分も大きかったんだと思います。でも……もう、その心配は消えてるみたいですけど」
桐島さんと付き合い始めたと報告して以来、顔を合わせれば嬉しそうな笑顔で色々と聞いてくるので、正直うっとうしい。
『澪はさっぱりしすぎだから、桐島の前ではぶりっこくらいの意識でいた方がいい』だとか、『意地を張る女は可愛くないから、頑張ってちゃんと甘えろよ』だとか、お節介がすごい。
それでも、黒田とのことを思いつめて、らしくない暗い顔をされるよりはよっぽどいいけれど、それは陸には内緒だ。