かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
桐島さんの部屋についたのは、十八時を回った頃だった。
十三時にランチを済ませ、それから遊園地を出るまでチュロスやパフェを食べていたのでお腹は空いていない……とうか、空腹なのかどうか、疲れているのかどうか、そんなことすら自分で判断できないほどに緊張している、という表現が正しい。
桐島さんに『俺の部屋に誘う予定でいるから』なんて発言をされた瞬間から、私の今日の最大ミッションは桐島さんのお部屋訪問となった。
うまくこなさなければ……ともんもんとしながら桐島さんの運転する車に揺られ到着したのは、綺麗なマンション。二十階くらいありそうな高さだ。
私のマンションとはレベルが違うのが外観だけでわかった。
暖色の照明を受けてピカピカに光っているベージュのタイルが敷き詰められたエントランスを抜け、エレベーターで十六階に上がる。
コンシェルジュが常駐していてもおかしくない高級感がそこかしこに散らばっていて、私の緊張を後押しした。
こんなラフな格好でいいのだろうかと、ここはドレスコードのあるホテルでもないのに、そんな馬鹿らしい疑問すら浮かぶ。
桐島さんは毎日、ここから出社して帰ってきているのか……と感心していると、フロアの一番奥の部屋の前で桐島さんが足を止めた。
1612号室。
「どうぞ」と言われ中に入ると、かすかに桐島さんの香りがした。
桐島さんは、接客業ということもあり普段香水を使わない。でも、今日みたいな日は薄く香水をつけていて、私はその香りがとても好きなのだけれど、部屋の中はそれと同じ匂いがした。