かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
香りを感じ取った途端、本当にここが桐島さんの部屋なんだと強く実感し……じわじわと嬉しさが広がり、それを緊張が追いかけてくる。
間取りは、玄関を入ると真っ直ぐに廊下が伸びていて、右がキッチン、左がバストイレで、突き当たりがリビング。
二十畳近くあるリビングは、本棚で仕切られていて、手前にはソファとローテーブルが、奥にはベッドが置かれていた。
壁紙が黒だからか、濃い色のフローリングや暖色の照明と相まってとても落ち着いた空間に見える。
木製のローテーブルや布張りのグレーのソファも、雰囲気に合っていてとてもおしゃれだ。
思わず「綺麗なお部屋ですね」ともらすと、桐島さんは困ったみたいな顔で笑った。
「そうでもないよ。家具は元々実家で使っていたものも多いし、ひとり暮らしだから、生活できればいいくらいにしか考えていなかったし」
「考えていなかった……ってことは、最近は違うんですか?」
言葉尻が気になって聞く。
たしかに、私も就職してひとり暮らしを始めた頃は、インテリアに時間を割く余裕はなかった。ただ仕事と最低限の生活をすることで精いっぱいだったし、金銭的な余裕もなかった。
だから、同じような感じだったのかな……と思い聞いた私に、桐島さんは「そうだね」と目を細めた。