かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
その言葉を聞いて、そういえば……と思う。
桐島さんの持ち物は、そういうものばかりだ。
キーケースも、いつも使っているボールペンも、通勤カバンも、お気に入りがあってずっと大事に使っているといつか会話の中で言っていた。
今日履いていたスニーカーも気に入って以来、履きつぶしては同じものを買っているって話していた。
この部屋の家具も、元々使っていたものを持ってきただけだって言っていたけれど、好きだから使い続けているのかもしれない。
そう思って見直せば、ソファもローテーブルも昔から使っていた物なのに綺麗で、とても丁寧に扱われてきたのがわかるような状態だった。
桐島さんは、好きなものを、長く、丁寧に大事にできる人なんだ。
それがわかった途端、今まで感じていた緊張がゆるゆるとほぐれていくのを感じた。
今日、桐島さんの部屋にきてよかった。
桐島さんがひとつのものをとても大事に丁寧に扱うことがわかったから。そして、私もそのうちのひとつになりたいと、心から望めたから。
桐島さんとなら、きっと大丈夫だ。
それまで緊張だとか、うまくやらなくちゃという気負いでいっぱいだった心を、根拠のない自信がおおっていく。
「私のことも……」
気持ちが高ぶって、うっかり〝私のことも大事にしてください〟なんて口走りそうになって慌てて口を閉じる。
元々そんなことを素直に伝えられる性格じゃない。恋に浮かされてどうかしていた。
口から飛び出した言葉に驚いて焦っている私に、桐島さんがふっと表情を緩めてから距離を詰め、キスをする。