かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「そういえば、俺たちの関係は会社に隠さない方向でいい?」
「はい」
陸のことを考えていたので、ついうっかりそんな返事をしてから顔を上げる。
「え……会社?」と眉を寄せた私に、桐島さんは微笑んでうなずいた。
「もちろん、積極的に広めようとは思わないけど、聞かれたら隠さないで本当のことを答えるつもりでいる」
「でも……」
「大丈夫だよ。社内での恋愛は禁止されていないしね。それに、オープンにしておいた方がなにかと都合がいいと思う。今後、酒井部長みたいな人が現れないとも限らないし、周りへの牽制も兼ねて公認の仲になっておきたい。そうすれば、変な飲み会に誘われることも、縁談を持ちかけられることもないだろうし」
「でも、せっかく噂も下火になってきたところですし、公言するのはまた誰かに勘ぐられたりしたらとかでも……」と言いだしたところを、キスで止められる。
突然のことに驚いて黙った私に、桐島さんが微笑む。
「どうせすぐにまた噂になるよ」
「……なんでですか?」と聞くと、意味深な笑みを返された。
「そういう勘のいい人間はどこにでもいるしね。だったらわざわざそれを待つ必要もない」
それは……たしかにそうなのかもしれない。
どうせ今も噂になってはいるんだし、尾びれがついて変なことになるくらいなら、付き合っていると公言した方が噂が下火になるのも速い。
憶測ばかりが飛び交うのは面倒くさいのもわかる。
でも……公言したあと一週間……いや、一ヵ月くらいは業火レベルの嫉妬を浴びることになりそうだ。
生き残れるかな、と一ヵ月後に思いを馳せていると、桐島さんが笑顔で言う。