かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「オフィスモードでお願いできませんか?」
「オフィスモード?」
「私、そんなふうに見られたり、あと過剰に褒められたりって慣れていないので、その……対応に困るんです。どんな顔してどんな言葉を返せばいいのかわからなくなるので、行内みたいに一線引いて接してくれた方が助かるなって」
褒められるのは苦手だ。
誰かに褒められても、その裏では別のことを思われているんじゃないかと、ある日から勘ぐるようになった。相手の見えない本心が怖くなった。
上司からの褒め言葉は社交辞令だと流せるし、シスコン気味な陸の過剰な褒め言葉も挨拶同然にスルーできるけれど、それ以外は扱いに困る。
だから、この部屋にきてからの桐島さんのあれこれはとても困るのだ。
こんな、裏表のない笑顔での褒め言葉は受け止めきれないし、上手な反応が返せない。
そう説明すると、桐島さんは目を丸くしたあとで、わずかに首を傾げた。
「もしかして、俺が褒めたりするのは迷惑だった? 不快だったなら謝るけど」
「え、いえ……そんなことは……」
〝ないんですけど〟と続けるよりも、桐島さんが安心したように表情を緩める方が先だった。