かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
今まで使っていたメイク用品なんかが入ったドレッサーは無事寝室の一角に収まったし、衣類やバッグ関係もクローゼットに収納できた。
書斎には二台のテーブルを並べたので、パソコンや本はそのうちの一台の上に置いた。
もともと荷物が少ないせいか引っ越しは案外スムーズに終わり、なんだか拍子抜けする。
物が少ないのは桐島さんも同じようで、作業は半日も経たずに終了していた。
ちなみに、リビングに置いたソファやローテーブル、それに寝室に置いたベッドは桐島さんが今まで使っていた物だ。
「せっかくなら買い替えようか」と言われたけれど、桐島さんが大事に使っていた物なら、それを継続して使いたいと私からお願いした。
キッチン関係の道具や雑貨が足りていないけれど、とりあえずふたりで住む部屋が完成し、ホッと息をつく。
同棲するなんて聞いたときには驚いたし、初めてだから不安も当然あったのだけれど、こうして出来上がった部屋を見ると不思議と安心した。
きっと、桐島さんが今まで大事に使ってきた物があちこちに散らばっているからかもしれない。
「はい。澪」
キッチンで紅茶を入れてくれていた桐島さんが、マグカップを差し出す。
藍色と茜色のマグカップは、引っ越しするにあたって購入した数少ないもののうちのひとつ。
高価なものではないけれど、気に入っている。
十月十八日。日曜日。
受け取ったマグカップの内側から熱が伝わってきて、その温かさが落ち着く季節になったんだなとしみじみ思う。
桐島さんが初めてうちを訪ねてきたときは、まだ夏だったのに。
そう考え……ふと疑問が浮かんだ。